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(コムイとリーバー。アレンのことで)
「はい、これが今回の任務だよ」
束にした書類を渡す。ぺらぺらと紙をめくるアレンの手つきはすっかり板についている。横から紙を覗き込む監査官の存在も馴染んでしまっていた。
コムイは胸中で複雑に渦巻く思いを器用にレンズで隠して、そっとアレンの様子を見守る。
やがて監査官に退出を促され、アレンは短く断りを入れて背を向けた。その出会ったときよりも随分成長したとはいえ小さな背中にコムイは声をかける。
「アレンくん、
いってらっしゃい」
ちょっと驚いたように目を見張った後、アレンは嬉しそうに少し笑って、いってきます、と返した。
ぱたん、と閉じた扉に思わずため息をついた。続いてコンコンとノックが響き、表情を引き締める。
「失礼します、室長ハンコお願いします」
「ああ、リーバーくんか」
「あれフェイ女史はいないんスね」
「ちょっとお使いにいってもらってるんだ」
綺麗に整頓された室長室で居心地悪そうにするリーバーに、ソファに座るよう勧める。
コムイはリーバーに渡された紙の束をちらりと見やって無造作に机の上に置いた。
「さっきね、アレンくんを任務に送ったんだ」
「・・・アレン、最近多いッスね」
「うん。・・・・・いってらっしゃいと言ったら、いってきますって言ってくれた」
アレンの立場は監視がついた日から悪くなっている。
ノアの宿主と、公にはなっていないとはいえ中央庁がアレンを警戒するたびに団員も疑惑を深めていく。
フェイからは、教団のトップに立つものが反感を買ってはいけないと、庇うことはおろか「いってらっしゃい」の一言さえも止められている。
ホームと呼んだ場所の裏切りに、それでもアレンは不満を言うこともなく受け入れた。
「僕たちのやっていることはなんだろうって思っちゃったよ」
「・・・・・・・・・」
室長という立場の無力さを実感する。
ホームを作ろうと思った。エクソシストが教団から逃れられないのならば、帰ってきたいと思える場所にしようと。エクソシストを縛る牢獄ではなく、迎える家族になる。その気持ちは今も変わっていないけれど。
「・・・・ジョニーが、一斑のみんなを説得して回っているんです」
黙りこんでいたリーバーがぽつりと言った。
「オレたちが何かしようって。友達だから。アレンを助けたいって」
たとえ非難をあびようとも。
「あんたの築いたホームの精神はなくなっちゃいませんよ。いつまでもそんな情けない顔してないでください。あんたにはあんたの役割と闘いがあるでしょう」
「・・・・・・そうだね」
レンズの奥の目を伏せる。妹を戦地に送り出す悲痛な感情を隠すために伊達眼鏡をかけるようになった。薄いレンズは今その役割を果たしてくれているだろうか。
ふと机に裏返したままの書類をめくった。リーバーが持ってきたものではない。タイトルは『アレン・ウォーカーおよび14番目の処遇について』。
「ねえリーバーくん、ボクはねリナリーがまだ小さいころ研究に研究を重ねてついに編み出したのさ」
「はあ?」
リーバーの訝しげな表情にニヤリと笑って手を動かす。ガラッと音を立てて窓を開けると風にあおられて紙が床に散らばっていった。リーバーが慌てて拾いだす。
「よく飛ぶ紙飛行機の折り方をね!」
それっ、という短い掛け声と共に紙飛行機が遠く飛んでいく。
振り返ると呆れたように、けれど笑みを浮かべるリーバーがいた。
それを見て、コムイはもう一度笑った。
* * * * *
しまった、新教団なのに崖の上にあるイメージのまま書いてしまいました。
(お題元:Vacant Vacancy)