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潮の匂いを運ぶ風に誘われて、アレンはふと顔をあげた。
隣にいたクロウリーも不思議そうにアレンと同じ方向を見ている。
「二人とも、どうしたさ?」
シュルシュルと槌を小さくしながらラビがやってきた。
「潮の匂いがします」
「潮?」
ラビもそのわずかな香りを嗅ぎ取ろうとしたらしい。けれど、戦闘後の粉塵が舞うここではなかなか難しいのか顔をしかめた。
「海なんてあったか? おーいホクロふたつ」
「相変わらず失礼な人ですね・・・」
「間違いないですよ。ねえリンク、本部に戻る前に少しだけ寄っちゃ駄目かな?」
アレンは目をきらきらと期待に輝かせながらリンクに頼みこむ。
クロウリーも瞳を輝かせてリンクの返事を待っている。長身の彼が子供のように無邪気に見つめてくる姿を見たリンクはうっとたじろいだ。
期待のこもったまなざしに、ふっと陰りが入った。
「駄目であるか・・・?」
何か、ものすごく罪悪感を感じる・・・!
ラビが咎めるような視線を送ってくるのを無視して腕時計を見、リンクは折れた。
「1時間が限度です」
「やった!」
「ありがとうであるリンク!」
目の前で喜びあう二人に、降参としてため息をつく。
「お前も大変さね」
・・・余計なお世話だ。
潮の匂いを頼りに進んでいくと急に視界が開ける。
「うっわぁ!」
真っ青な海が陽の光を反射して、とてもまぶしい。
砂浜には誰もいなくて、海にも遠くに小さく船が見えるくらい。
この場所は今、貸切だよと言われているようで、思わずわくわくした。
「砂、さらっさらだ!」
「熱っ」
素手で砂を触ったクロウリーが小さく悲鳴をあげた。
それから顔を見合わせて、なんだか楽しくなって、衝動のままに駆け出した。
「アレンとクロちゃん、元気さねー」
少し離れたところでそんな二人を見守る人影が二つ。
熱い熱いと団服を脱いで、ラビは二人をまぶしそうに見守った。
リンクはラビのように脱ぐことはなかったが、きっちりと留めたボタンを外し、愛読書のスイーツ本を開いている。
それでも監査官という本来の仕事を忘れてはいないのか、ときどきアレンたちのほうを見て目を細めた。
「海ではしゃぐなんて子供ですか」
「まあまあ。二人ともこうやって手放しに海ではしゃいだことなんてないから珍しいんじゃね?」
太陽が降り注ぐ中、二人の髪がきらきらと光を反射して輝く。
リンクはその様子をもう一度見て、何も言わずに本へと視線を戻す。
ラビが穏やかな波の音を聞きながら二人を見守っていると、アレンはブーツを脱ぎだした。
「せっかくだし、入りません?」
言うが早いか素足になり、続いて手袋も脱ぎだす。
それに習ってクロウリーもブーツを脱いだ。
素足で砂を踏みしめる感触。
やけどしそうなほどに熱いけれど、とても気持ちよかった。
「ちょっと入ってきますねー」
「羽目を外し過ぎないように」
「はーい」
ばしゃばしゃと音を立てながら海へ入る。
ひんやりと気持ちいい。
寄せては返す波が面白くて、ズボンをもっと高くまくるとさらに深いところへ足を踏み入れた。
「危ないであるよ」
「平気だ、」
よ、と続けようとしたところでアレンは波に足をとられた。
慌ててバランスをとろうとするものの、海という特殊な場所では踏ん張るのも難しい。
「う、わ」
直後、派手な音をたてて水しぶきがあがった。
「アレン!」
クロウリーが急いでアレンのほうへ駆け寄ってくる。
しりもちをついてしまったせいで服はもう完全に濡れてしまった。
その状態のままでクロウリーを見上げ、改めてクロウリーの背が高いことを知った。
ちょっと、どころではなく羨ましい。
アレンはまだ成長期だからと自分を励ましてみるけれど、イノセンスにほとんどのエネルギーを取られているいまの状態を見るとそうも楽観的にはいられない。
「アレン?」
クロウリーは心配そうにアレンを見て、手を差し出した。
彼はいつもは天然でちょっと頼りないように見えても、ちゃんと大人だ。
ときどきそれを強く感じて、ちょっぴり寂しくも思う。
どうしてもこの差は埋められないから。
だから、
ぐいっと差し出された手を取って、アレンは悪戯っ子の笑みを浮かべた。
きょとんとするクロウリーの隙をついて強く引っ張る。
二人して倒れこんで、さっきよりも大きな水しぶきがあがった。
「ぷはっ」
「あはは、クロウリーもずぶぬれ!」
「やったな!」
そのあとはいつのまにか水の掛け合いに。
それはリンクとラビが止めにくるまで続けられて。ついでに二人も水をかけられて。
リンクはもちろんお説教をして、ラビはそれでも楽しそうな色をしたアレンとクロウリーの瞳を見て苦笑を浮かべながら湿ってしまった明るい色の髪をかいた。
「アレンもクロちゃんも風邪ひくなよ」
「わっ、大変クロウリー。はい、タオル」
「あなたもです、ウォーカー」
「ほら、クロちゃん髪ふいてやるさー」
「ありがとうである。でも自分でできるが?」
「いいのいいの。オレがやりたいんだから」
「帰ったら大浴場に入ること」
「はーい」
世話焼きな二人の傍でアレンとクロウリーはこっそりと顔を見合わせ、くすりと笑った。
潮のにおいをたっぷりと含んだ風が頬をくすぐっていく。
振り返って、そっと海に別れを告げる。
傾いた太陽がほのかに水を染め上げていて、きらきらと手を振っていた。
* * * * *
今年の夏は海にも山にも行けなかったのでその悔しさをぶつけてみました。ちなみに山が好き。でも描写としては海のほうが効果的なのは認めざるを得ません。
描きたかったのはクロウリーの可愛さと無邪気さとそれでも大人なところと、15歳のアレンです。あれ、ラビとリンクは?
一応CPなしのつもりです。
友人リクエスト「+クロウリー」ということでアレンとクロウリーとラビとリンクでした。