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※例のごとく過去捏造ですよ。





 マナとアレンは基本的には二人だけで旅をし、大道芸で稼ぎ、命を繋ぐ生活だったけれど、ときどき行きずりでサーカス団に混ざることもあった。
 マナに引き取られて、とげとげしい性格も丸くなってきたアレン。そのアレンにとって因縁の場所である「サーカス」は二人を好意的に受け入れてくれた。
 ここでのアレンの仕事は主に動物の世話。それから雑用。
 やっていることはあのころと同じでも幼いアレンに対してもお礼を言ってくれるこの場所で、アレンは他人に対してもよく笑うようになってきた。
 その様子をマナはどこか寂しそうに、けれど微笑ましそうに見守っていた。



 その日の食事はホットケーキ。
 食べ盛りなのにごめんね、と気のいいおばさんはホットケーキに何かをかけてくれた。
 ランプの灯りに反射してきらめく、とろっとした液体。
 指ですくって舐めてみると信じられないくらい甘くて。目を見開いて素直に驚くアレンに周りの大人たちは笑う。
 それはメープルシロップというらしい。
 道端で咲いていた鮮やかな赤の小さな花の蜜を吸ったときも甘かったけれど、量があるせいかメープルシロップのほうがすっと甘くかんじる。
 何かの花の蜜をたくさんたくさん集めて作ったのかもしれない。
 瞳を輝かせて夢中になって食べるアレンを見守る目はどこまでも優しい。
 その中にわずかな切なさを見つけて、アレンは思わず手を止めた。
―――マナ、
―――?
 思わず呼びかけたけれど、マナは気のせいだったのかと思うくらいニコニコと笑っている。
 なんでもない。とっさに口にして、再びホットケーキをほおばる。
 やっぱりそれは甘かった。
 マナとの二人旅は贅沢なんてかけらも出来ない。アレンがまだ自分で稼ぐことが出来ないのもあるのかもしれないけれど、生活は厳しかった。もちろん夢のように甘いお菓子、なんてそれこそ夢でしかない。
 もしかしたら、マナはそれを気にしたのかもしれなかった。
 気にすることなんてないのに。
 どんなに生活が厳しくても、アレンはマナとの二人旅が好きだった。ここのサーカスで暮らすよりも。
 そりゃ甘いものは大好きだけど、甘いものを手にする代わりにマナを失うのはなんだかとても怖い考えだと思った。
 アレンはマナをちょいちょいと手招きすると、おもむろにたっぷりのメープルシロップがかかったホットケーキをマナの口につっこんだ。
―――おいしい?
 周りが目を見張る中、アレンは悪戯っ子の笑みでそれだけ聞いた。マナがうなずくのを見て、歯を見せて笑う。
 はんぶんこ、と言えば。マナもにっこりと満面の笑みを浮かべた。



 季節は移り変わって、秋。
 アレンもジャグリングや玉乗りを習い、小さな大道芸人としてマナと並んで立てるようになってきた。
 アレンの髪を遊ばせる風もひやりと冷たくなってきた。少し頬を赤くさせるアレンにマナはコートを買おうかと提案して、どこにそんなお金があるんだ、としばらく押し問答する。
 秋になれば、木々はゆるやかにその色を変えて見る人の目を楽しませる。柔らかな緑の葉がだんだんと色づいていく様子は確かに綺麗だと思った。
 そろそろ銀杏が落ちるころ。匂いがきついけれど一週間も土の下で眠らせておけば食べごろ。
 ドングリは集めて水につけて。水に浮いたのは駄目。アクも出やすいやつと少ないやつがあるって前に聞いた。後でもう一度マナに聞こう。
 マナが思いついたようにある1本の木の前で立ち止まった。
 真紅の葉を枝いっぱいにかかえて、燃えているみたい。
 その木の名前を知っているか、とマナはアレンに尋ねた。アレンは首を振る。
―――メープル。
 その名前にアレンは思わず木をまじまじと見つめた。
 舌にいつかのメープルシロップの味がよみがえってきた。
 ずっと花の蜜だと思っていたメープルは、どこからどうみても立派な樹だった。
 その樹皮は甘いのかと好奇心がもたげる。
 その考えをマナも面白そうに聞いていたけれど、結局実行しようというところで通りがかった神父さんらしき人に、お腹がすいているならこれを食べなさいとパンを手渡されて、結果はわからず終いだった。

 パンをもそもそと食べながら、燃えているような真紅の葉を見上げる。
 吹いてきた風が葉をひらひらと落とした。
 ミトンに覆われた左手で、反射的に受け止める。
 綺麗ですね、とマナが言った。それにアレンは、うんと頷く。
―――この葉を、赤ちゃんの手と例える国もあるんですよ。
―――へえ。
 小さくて真っ赤な葉っぱ。木の中にはびっくりするような甘さを蓄えている。
 ぴったりだと、思った。
―――でも僕は、
―――?
―――アレンの左手にそっくりだと、思います。
―――・・・・・・。
 もう一度、手の中の小さな葉をじっくりと見る。
 しわしわで血のように赤い葉を、もう綺麗だとは思えなくなってしまった。
 思わず力をこめてくしゃくしゃに崩し、地面へと降らせてしまう。
 少し恨めしく思いながらマナへと視線を移すと、マナは優しい手つきでアレンの左手に触れ、ミトンを外した。
―――綺麗だと思いますよ。
 マナの視線はひらひらと葉を落とす木へ注がれていて、アレンはうつむいて足元に落ちている真紅の葉と、先ほど散らせてしまった葉の残骸を見つめた。
 お腹でも痛いんですか?とズレたことを聞いてくる養い親に、アレンはうるさいとだけ返した。





 あのころ夢の食べ物だったものたちが目の前に所狭しと並んでいる。
「ジェリーさん今日も最高ですっ!」
「あらん、そんなこと言われると張り切っちゃうわ~」
 数々のデザートが今日もアレンの目の前で「早く食べて」と言わんばかりに輝いている。
 幸せそうにそれらを見つめるアレンと対照的に、通りがかった神田は至極嫌そうに眉を眇めたけれどそれは無視した。
 いただきます、の言葉を合図にしっかり味わいつつも信じられない速度で山のようなデザートを減らしていく。
 あっという間に最後になった特大パフェのヨーグルトに蜜色の液体がかかっているのに気付いて手を止めた。
「あら、アレンちゃんメープルシロップ苦手だったかしら?」
「いえ大好きです! ただ懐かしいなって」
 口に入れればいつかの記憶が鮮明に思い出せた。
 あの日恐れたように、意図せずとも結果的にマナを喪って甘いものを手にすることとなった。
 口の中はあの日と同じ甘い味と香りであふれている。
「アレン相変わらずすごい量さねー」
 ほんのちょっぴり切ない気持ちになったところで、ラビがいつものようにちょっかいをかけに来た。
「あげませんよ」
「つつしんで遠慮させてもらうさ」
 ラビはアレンの正面に座ると食器をずらしてアレンをニコニコと見つめた。
 食べにくいですとこぼしていると、科学班が一段落着いたらしいリナリーがやってきた。
 たしかにあのころ手にしていたものは壊れてしまったけれど。
「アレンくんって食べていると本当にしあわせそうな顔するよね」
「それはオレも思う」

「だってしあわせなんです」

 まだ寂しさはどこか消えなくても、今がしあわせだと思えたから。
 そう言えばマナも笑っていてくれる気がした。

 メープルの甘い香りが風に乗ってふわりと広がった。


* * * * *
 途中、秋の描写について考えて、銀杏とドングリの調理法が出てきた私はもう駄目だと思いました。
 そのまま書いちゃいましたけどあとで直そうかな。
 マナ絡みで珍しくまったりほのぼの風味。マナは天然たらしだと思うんです。(何の主張?)
 楓の花言葉は「非凡な才能」「遠慮」あたりが有名ですが、「大切な思い出」というのもあるみたいです。
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