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※「宇宙魚顚末記」とのダブルパロです。





 話を聞けばティキとロードは冗談でなく一時休戦を申し込みに来たらしい。
 エクソシストと面識のある、そしてこじれることのないための人選だそうだ。
「休戦なら伯爵が来ればいいんじゃないですか」
「アクマを作ってんのはうちの社長だよ、少年。もっとも、お前が忘れるわけないだろうけど。
 その千年公とエクソシストが仲良く話し合ったとしたら、お前らのとこの団員が黙ってないだろう」
「ティッキーが考えたみたいに言ってるけど、ボクらの人選をしたのは千年公だよぉ。千年公も苦渋の決断だったんだから。イノセンスと手を組まなくちゃいけないだなんて」
「お前ら世界を壊したいんだろ。あの魚はノアにとって都合がいいんじゃないさ?」
「ブッブー。そんな短絡的な考えだと思わないでくれるぅ? あのねーボクたちは、」
「ロード、ストップ。つまり、こっちにはこっちの事情があるんだ」
「優先されるべきは空の魚、というわけね。利害の一致によってこっちにも協力しろと」
「なんだかこんな簡単に休戦とか言われると本気で腹たちますけど」
「少年の気持ちもよーくわかるけど、つまりそういうわけ」
 この世界そのものを飲み込んでしまう魚は、イノセンスによるものでもノアによるものでもない。よって正しい対処法もわからない。
 けれど、人智を超えた力はノアもイノセンスも同じことで、そして教団側にも伯爵側にも優秀なブレーンがいる。そこにブックマンの知識も加われば打開できる可能性はでてくる。
「ただし、問題なのはやっぱりお前らのところの反感だ」
 世界を救う。そんな大義名分を掲げて、その眼に憎悪の炎を宿しているものは決して少なくない。
 いつしかアレンを悪魔だと言ったあの青年のように。わだかまりが解けることなんて確実にないだろう。
 だから。だからこそ、団員を大聖堂に集めた。
「なんとなく読めてきたさ。手を組むことにしました、だなんて間違っても言えない。ましてや神の使徒が悪魔と馴れ合っているとも」
「そこでニセの情報を流すことにしたんだぁ。アレはこっちの武器の一つだとね」
 表向きは、ねぇ。
 ロードの口がキュッとつり上がる。偽の情報とも知らず踊らされる教団を笑ったのかもしれない。
「後はそっちが教皇の名の下に魚を滅することを宣言してくれさえすればアフターケアはバッチリ」
 ただし、この話し合いが上手くいけばの話。
「どう? 悪くない条件だと思うけどぉ」
 ふふ、とロードが笑う。彼女に取ってはこの世界の存続を左右する魚の出現ですらゲームのようなもののようだ。
「その前に一ついい?」
 リナリーが問う。この場で身の振り方が決まるかもしれない。それでも強い意志の光がその眼には見てとれた。
「この提案、兄さんにはもう通してあったのでしょう」
 今日という日が来る前から。それほどまでに教団の事情を把握した条件。
 ティキはご名答と言った。
「最初は流石に驚かれたが、思慮深いというかむやみに突っぱねられることは無かった。底の見えない眼をしていたよ」
「私の兄さんだもの。兄さんがよく吟味して呑んだというなら、私が反対する理由は無いわ」
「具体的に協力って何すればいいんさ?」
「それはまた後日。なにしろ、エクソシストの能力をこっちは知らないし、そっちもオレらの能力を知らないだろう。まあ眼帯君は過去に前例があるかどうか調べてくれとのことだ」
「のった。世界の終わりを見届けるのも、そりゃ貴重な記録だけどまだ死にたくはねえもん」
「・・・・・・・交渉成立、だな」
 その一言が合図。
 大聖堂では教皇の意思と称して「魚」について団員に知らされた。
 正しい情報を得られるエクソシスト、つまるところ協力者は、このあと性格や能力の点から吟味される。
 またな少年。その言葉にアレンは曖昧に笑って見せた。
 次にノアにあうときは敵としてではない。そんな大義名分は剥ぎ取られてしまった。
 リナリーは、貴方のことは個人的に嫌いなの、私の仲間にちょっかいを出さないで、と可愛い顔で辛らつに言い放っていた。
 その硬質なイノセンスのように、強く清廉な意思を持つリナリーを、少し羨ましいと思ってしまう。



 あれから3回、朝と夜が来たけれど、まだ魚は悠々とそこに在りつづける。
 アレンは青く茂る芝生の上に身体を横たえ、広がる星の海を眺めていた。
「ねえアレン。あのとき、アレンは何も言わなかったねぇ」
「いつからそこにいたの、ロード」
 もとより返事は期待していない。ロードもアレンにならって空を見上げた。
「本当は アレン どう思ってる?」
 確信をついた簡潔な質問に、アレンは宙を見ながら口を開く。
 視線は合わせなかった。

「僕は、本当はとてもずるくて酷いことを思っていたんだ」

 ぽつん。落ちる言葉と共に、遠くで星が瞬いた。

 魚がすべてを終わらせるのなら、それでもいいと思っていた。
 悲劇は悲劇を生んで、涙は海となってしまうから。
 終わらない悲劇の連鎖を飲み込むことで終わらせるのなら、それでもいいと。
 悲劇もAKUMAもノアもエクソシストも。
 憎悪も私欲も病める人も健やかなる人も。
 この空の下で凍える子供も、肩を寄せ合う恋人も、満たされない富豪も、幸福な家族も。
 すべてが平等に。
 ゆっくりとやってくる邪気のない魚に怯えてながら、終焉の予感に眠れぬ夜を過ごしたとしても。
 それでも昇る朝日に喜んで、隣り合う人の温もりに気づけたら。
 痛みも無く、予定されていたように、穏やかな終焉が平等に終わりを連れてくるのなら、それは幸せな結末なのではないかと弱い自分が言った。

 でもそれは逃げだ。

「悲劇を終わらせるのがエクソシストの役目なのに。情けないや」
 その悲劇の一端を担う少女にこんなことを言うのは馬鹿げている。
 アレンの独白を、ロードは笑わなかった。
「ボクはねぇ、あいつを憎く思ったよ」
 あいつ―――グッピーは気にした風も無くただそこで泳いでいる。
「だってあいつが現れるだけでノアとエクソシストが手を組んじゃうんだって。長い間ずっと因縁に縛られてきたのに。こんなに腹たつことってないよねぇ」
 ロードはこれも退屈しのぎだと思っているのかと思ったら、違った。
 アレンが身を起こすと、見計らったようにロードが腕を伸ばしてきた。
 ぎゅうっと体温が伝わってくる。
「だから利用できることは利用してやるんだぁ。だって今ボクらは敵同士じゃないんでしょ?」
 甘えたような囁きにアレンはぬくもりを甘受した。
 空には広がる星の海。そこからグッピーがじっと見つめてくる。
 ロードがグッピーに向かってべぇっと舌を出しているのがおかしくて、アレンも真似して思わず声をあげて笑いあった。

 穏やかな終焉を思い描いていた。
 けれど、まだ頑張れるだけ悪あがいてみようと思うよ。
 その結果僕らがまた敵同士になっても、ね。
 さようなら甘い幻想。それからありがとう。

 ゆっくりとグッピーが旋回する。

 さながら絵画のように月が照らし出した少年と少女と空飛ぶ魚。
 幻想的な光景は奇妙で、そしてそれ故に美しかった。



END
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